2月2日
最高だった。
楽屋で白いドレスに着替えている晴美さんを見ながら、
今日、この場所で、この人とダンスができる奇跡を感じて、
ジェリーさんの音とともに
ある、
ことだけを踊ろうと決めた。
ほの明るい光と闇がつくる輪のはざまでたゆたうと、からだが滑りはじめた。
きっと、もうひとつの光の輪では、晴美さんが踊っているのだろう。
感じるままに、気ままに踊った。
光がひとつの大きな輪になった。すこし晴美さんを探ってみると、
ヴェールの向こうで、目がらんらんとし、ぐふふと笑っていた。
いいですか、おにいちゃん、おどりましょう、おもいっきりやりましょう、
って言ってるのがわかった。
僕は、ますます気ままに踊った。
前回とは違った。開始直後に発作が起こったあの時とは。
四方を囲んだ下手側の客席から拍手が聞こえた。叫び声も聞こえる。どうやら晴美さんのお母さんのようだった。
「わたしは、じぶんのこだけがかわいいんです。」「よかったよ。」「サクマさん、ありがとう。」「こんなこをわたしはうんだんですか。しんじられない。」「ぶちこわして、ごめんなさいね。」
間欠泉のように、感情の泉が高まるたびに、お母さんは何度も登場した。
「ありがとうございます、はるみさんのおかあさんですね、まだなんです、ここからなんです、まだまだおどるんですよ、だいじょうぶです、ありがとうおかあさん。」
と、僕も叫んでいた。
晴美さんを車椅子から下ろした。どんどん踊り出した。イチ、ニ、サン、シ、ゴッ、ロック、歌いながらダンスした。ぐるぐる、ひょこひょこ踊りながら、
わたしいいでしょ、みんなみてる、いけてるでしょ、すごいでしょ、
ダンスの渦。
僕が飛び跳ねると、晴美さんも魂ごとジャンプして終わった。崩れ落ちた晴美さんをお姫さまだっこして、くるりくるりと回った。
「それを待ってたんや!」「ウォー」
ことばにならない叫びが聞こえてきた。拍手の中での退場。
なにかがうまれたようだった。いつも毎日毎日何年も「うまれた」を叫び続けたのに、舞台では叫ばなかった。ほんとにうまれるときは、うまれたとは言わないんだろう。この日まで、想像妊娠のような状態になっていた。ほんきで狂気で、踊り狂うひと。僕は、晴美さんにあこがれ続けているのだろう。彼女と一緒に、自分の力を総動員して闘えるダンス事故。ダンスの力、ダンスの可能性。ひとの力、ひとの可能性。
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